12月19日の中医協総会で示されたデータは、一部の訪問看護ステーション、特に「高齢者住宅併設型」のビジネスモデルにとって、過去最大級の衝撃を与える内容でした。
このパートでは、厚労省が突きつけた「不都合な真実」を、実際のデータを基に解説します。
令和7年12月19日の中医協総会にて、訪問看護に関する非常に重要な資料が提示されました。 テーマは**「訪問看護の適正化」**。 これまでも議論されてきた「高齢者施設等への効率的な訪問」ですが、今回厚労省が提示したデータは、これまでの議論のレベルを一段階引き上げるほど具体的かつ批判的なものでした。
特に、有料老人ホームやサ高住などに併設し、効率的に訪問を行っている事業所にとっては、ビジネスモデルの根幹を揺るがす規制が目前に迫っていると言えます。
本記事の元になる中医協の資料はこちらです↓
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001616556.pdf
1. 点数を下げたはずが「医療費倍増」のパラドックス
令和6年度の改定で、同一建物内の利用者が多い場合(7割以上など)に算定する「訪問看護管理療養費2(低い区分)」が新設されました。これは、効率的に回れる分、報酬を適正化(減算)するという意図でした。
しかし、今回示されたデータ(資料8ページ)は、厚労省の意図とは真逆の結果を示しています。
- 訪問看護管理療養費1(通常)算定者の医療費中央値:90,849円
- 訪問看護管理療養費2(併設型等)算定者の医療費中央値:192,162円
なんと、単価の低い「管理療養費2」を算定している利用者の方が、月額医療費が2倍以上高いという逆転現象が起きています。 これは、「単価が下がった分、訪問回数を増やすことで収益を維持(あるいは増大)させている」という実態を、数字が如実に証明してしまった形です。

2. 「ほぼ毎日訪問」が45.8%の異常事態
では、具体的にどれくらいの頻度で訪問しているのでしょうか。 資料46ページのデータが、その実態を暴いています。
訪問看護基本療養費Ⅱ(同一建物居住者への訪問)を算定している利用者において、1か月の訪問日数が**「26日~30日」に達する割合は、なんと45.8%**にのぼります。 一方で、通常の訪問看護(基本療養費Ⅰ)では、この割合は5%未満です。

つまり、施設併設型のモデルでは、**「利用者の約半数に対して、ほぼ毎日訪問看護に入っている」**ということです。 医療ニーズが高い「別表第7(末期の悪性腫瘍や難病など)」や「特別訪問看護指示書」の対象者が多いとはいえ、通常の在宅療養と比較してあまりに極端な偏りがあり、あなたはこのデータをみて「本当に毎日、看護師によるケアが必要なのか?」「介護スタッフで代替できるケアも含まれているのではないか?」と疑念をもちませんか?厚労省も同じ疑念を持っていることでしょう。
3. 「短時間・高頻度」という錬金術
さらに問題視されているのが「滞在時間」です。 同資料(46ページ)によると、訪問看護基本療養費Ⅱを算定している場合、1回あたりの訪問時間は明らかに短くなっています。
- 通常の場合:最も多いのは「45分以上75分未満(50%超)」
- 併設型等の場合:**「20分以上30分未満(38.9%)」**および「30分以上45分未満」が主流
また、同一建物の利用者が31人以上の場合、約半数(50.8%)が「20分未満」の訪問で算定されています。
「同じ建物内を移動時間ゼロで回り、1回20分の短いケアを毎日繰り返す」 これが、今回データで浮き彫りになった、一部のステーションが行っている高収益モデルの正体です。

4. 「包括払い」導入へのカウントダウン
これらのデータを受け、厚労省はもはや「減算」程度の対応では不十分と考えている節があります。 資料内(3ページ、10ページ)では、今後の方向性として以下のキーワードが明記されました。
- 包括的な評価(マルメ)の検討: 出来高払いではなく、高齢者住宅等の居住者に対しては「定額制」などを導入し、回数を増やしても収益が増えない仕組みにする。
- 指示書の厳格化: 頻回訪問が必要な場合、医師の「訪問看護指示書」に明確な理由記載を求める。
「訪問回数で稼ぐ」というモデルの終焉は近いかもしれません。次期改定、あるいはそれ以前の通知改正等で、抜本的なメスが入る可能性極めて高い状況です。


5.【警告】そのハンコ、数千万の返還請求への「連帯保証」かもしれません
「訪問看護ステーションが不正をしていても、うちは指示書を出しただけだから関係ない」 もしそうお考えの医療機関の先生がいらっしゃれば、その認識は致命的です。
今回のデータ公開は、厚労省が「頻回訪問の蛇口」を握っているのは誰か、完全にロックオンしたことを意味します。蛇口を握っているのはステーションではありません。「指示書」という名のカギを持つ、あなた(主治医)です。
今後、個別指導の現場でどのような追及が行われるか、コンサルタントとして予言しておきます。
6. 「共犯」とみなされるロジック
ステーション側に監査が入り、例えば「状態が安定しているのに毎日訪問していた」ことが発覚したとします。
この時、厚生局の技官は必ずこう考えます。 「この異常な訪問頻度を、医学的に正当だと認めて指示した医師は誰だ?」
もし、先生のカルテに「頻回訪問が必要な医学的根拠」や「日々のステーションからの報告に対する評価」が乏しければ、先生は「ステーションの利益誘導に加担した(あるいは名義貸しをした)」とみなされます。 最悪の場合、ステーションへの指導で得られが情報を基に、
「次は指示元のクリニックを呼び出そう(選定しよう)」
という流れ(芋づる式指導)になるもあり得えるかもしれません。(個別指導の選定理由の一つは情報提供で、東京都では個別指導になる1番多い原因になっています)
7. 個別指導の「密室」で問われること
では、実際に先生が個別指導会場に呼ばれたとしましょう。技官は、先生が安易に出した「特別訪問看護指示書(特指示)」を手に取り、こう詰め寄ります。
先生、この患者さんに特別訪問看護指示書で週4回以上の頻回の訪問看護を指示されていますね。カルテを見ると『状態安定』とありますが、なぜ頻回に看護師が行く必要があったのですか?
いや、ステーションの方から『家族が不安がっているから出してくれ』と頼まれまして…
それは医学的理由ではありません。 医師としての主体的な判断放棄です。この訪問看護指示料は認められませんし、あなたの管理料(在宅時医学総合管理料など)の算定根拠も疑わしいですね
このようなやり取りで「返答不能」となれば、その患者さんに関する算定だけでなく、目を付けられ厳しい再指導や最悪の場合監査に進んでしまう事にも繋がりかねません。
実際、個別指導における主な指摘事項には以下のようなポイントが挙げられます
- 訪問看護指示書の記載内容が画一的かつ傾向的である。
- 訪問看護指示書の緊急時の連絡先、不在時の対応法)への記載が ない。
- 訪問看護指示書の留意事項及び指示事項への記載が不十分である。
8. 「お付き合い」で済まされる時代は終わった
今回の資料(10ページ)で示された「指示書への理由記載の義務化」は、厚労省からの明確なメッセージです。 「主体的な医学的判断なしに、ハンコを押すな」ということです。
これまでは、地域のステーションとの付き合いや、断る面倒くささから、持参された書類にそのまま押印していたケースもあったかもしれません。 しかし、次期改定以降、そのハンコ一つが、数年後に先生のクリニックを窮地に追い込む「時限爆弾」になりかねます。

9.今すぐやるべき「自己防衛策」
明日、あなたのクリニックに「個別指導の通知」が届いたとしても、以下の3点さえカルテに残っていれば、最悪の事態(返還・指定取消)は免れます。これは「推奨」ではなく、保険医として生き残るための「必須義務」です。
1. 看護指示書の項目は必ず埋める
点数表(C007注2)には、特指示の要件として「当該患者の急性増悪等により一時的に」と明記されています。診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項を見ると、”急性増悪等”に含まれるのは、以下の3つです
- 急性増悪(真皮を越える褥瘡を含む)
- 終末期
- 退院直後
半年以上も毎月連続で算定している場合、技官は「これは『一時的』ではなく『恒常的』な状態ですよね?」と否認してきます。 これを防ぐためにも、看護指示書に、当該患者が急性増悪等に該当するのか、日常行っている訪問看護の回数では一時的に対応できなくなった理由について記載すべきです。
には、毎月の指示が「漫然とした継続」ではなく、「その都度発生した新たな医学的イベントへの対応」であることをカルテ上で主張する必要があります。
- 【鉄則】 先月と同じ理由(コピペ)で指示書を出さない。「今月はなぜ必要なのか」という新たなトリガーを記録する。
- 【カルテ記載例】「先月の尿路感染は軽快したが、昨晩より38度台の発熱と仙骨部の発赤増強(褥瘡予備軍)あり。新たな感染兆候および褥瘡悪化防止のため、集中的な観察が必要と判断し、再度特指示を交付。」
2. 特指示を出す日のカルテから「著変なし」「DO」を抹消せよ
特指示とカルテと整合性がとれている必要があります。「指示書には『急性増悪』とあるのに、同日のカルテに『著変なし(DO)』と書いてある事例」です。 これは「虚偽記載」の動かぬ証拠となり、指示料だけでなく、その月(および過去数ヶ月)の在宅時医学総合管理料までセットで返還させられる可能性もあります。
- 【鉄則】 特別訪問看護指示書を発行する日は、必ず**「何が悪化したのか」**を具体的数値や症状でカルテに記載してください。
- 【カルテ記載例】× NG:「状態不安定のため特指示発行」 ◎ OK:「訪看よりSpO2 93%への低下と喀痰量増加の報告あり。肺炎の急性増悪を疑い、抗生剤点滴および頻回の吸引・排痰ケアが必要と判断。本日より14日間の特指示を交付する」
3. 報告書への「1行コメント」が返金から身を守る
「訪問看護ステーションから送られてくる報告書を見ていない(シュレッダー直行)」は、個別指導において「医師の管理放棄(名義貸し)」とみなされます。 技官は「先生、報告書には『ご家族が点滴を拒否した』とありますが、先生はこれを見てどう判断し、どう指示を変えましたか?」と聞いてきます。ここで答えられなければアウトです。
- 【鉄則】 報告書を読んだ証拠(アリバイ)を必ずカルテに残す。書類のPDFだけでなく、医師の思考過程を1行でいいので残す。
- 【カルテ記載例】「〇月分訪看報告書を確認。褥瘡は上皮化しつつあるが、家族の介護力に不安が残るため、週3回の訪問を維持し、ガーゼ交換の手技指導を継続するよう指示した。」
まとめ: 「ステーションに頼まれたから」は、監査の場では通用しません。 **「私の医学的判断で、私の指示として行わせた」**と言い切れる証拠がカルテにあるか。今すぐ直近のカルテを開き、上記の3点を確認してください。それが欠けていれば、そこがあなたのクリニックの「決壊ポイント」です。



